今一度いい歌詞とは何か、考えてみましょう

シゲサワです。いきなりですが、いい歌詞ってどんな歌詞だろうか。という質問を無作為にしてみれば、「共感できる」がたぶん圧倒的第一党。一方、そこを批判するのがズレた方向に行って「歌詞聴いてない、どうでもいい」みたいな声も特にヘビーリスナーには少なくないような肌感覚がある。その2パターンから先の議論が起こることは、なかなかないように思う。でも歌詞のよさってもっと多様な要素があるはずだ。あまりまとまっていないけど、僕が思いついた要素をちょっと挙げてみます。
①聴き手に映像を見せることに意識的なもの
②物語や概念、いくつかのキーワードで張られた面を描くようなもの、ストーリーテリングしていくようなもの
③共感とは逆、理解できないような自分にとって新しい価値観を描くもの
④もっとプリミティブに、美しい押韻など音、リズムとして優れているもの

そんなことを考えたのは今年はやけに心惹かれる日本語の歌詞が多かったからです。ここからは、今年発表された3曲にフォーカスして僕の思う「いい歌詞」について書いてみます。ちなみに今からの3曲以外にも、歌詞でいうとROTH BART BARON「HEX」、中村佳穂「AINOU」あたりもアルバムまるまる素晴らしいです。

CRCK/LCKS「O.K.」


クラシック音楽がルーツにあったり、Jazzシーンで活躍しているような実力者ばかり(現ceroのサポートメンバーの小田朋美さん、Taylor McFerrinやKurt Rosenwinkelなどとの共演歴があるドラマーの石若駿さんが特に有名でしょうか)で結成されたバンドCRCK/LCKSの今年出たミニアルバム中の1曲。メンバーによる作品が多数のバンドだけど、この曲は俳人の佐藤文香さん(kindleで¥162で買える詩集が手軽に読めておすすめです)からの作詞提供曲。
特筆すべきはそのカメラワーク。ちょっと最初に重要な部分を引用してみよう。

O.K. 奥渋でかまわない O.K.二子玉でかまわない
O.K. 吉祥寺から遠ざかる この商店街はなんて名前よ

 

O.K. 奥渋でかまわない O.K.二子玉でかまわない
O.K. 吉祥寺から遠ざかる この商店街 いいお皿買えた

前者がメインコーラスで7回ほど繰り返された後の最後の1回として後者が登場する流れ。繰り返されるコーラスでは「奥渋」、「二子玉」、「吉祥寺」、「商店街」、またそれ以外の部分でも「公園」、「山裾」、「渋谷」、「八王子」といったワードでもって、どちらかと言うと引きのカットが思い浮かびやすいように組み立てられているように感じる。ただこれで終わるとイメージとして少しぼやけてしまうはずなのだけど、最後に配される「いいお皿買えた」、これによって、脳内カメラが一気に引きの「商店街」の絵から「お皿」にフォーカスしていく躍動感!! 何てことない一言で一気に奥行きが生まれ、インパクトを残すことに成功している。全体的にみても佐藤文香さんの言葉遊びの妙がさく裂していて、口語への崩し具合や先輩俳人の作品タイトルの引用など前述の④的な楽しみもたくさんある作品とも言えると思います。

 

小沢健二「アルペジオ(きっと魔法のトンネルの先)」

日本有数の作詞家といって異論はないでしょう。そんな小沢健二の代表曲の1つ「ラブリー」では「ラアイフ イズ ショータアイム」のように実に滑らかな「ai」の押韻が曲を駆動させていくようだけれども、この曲もそんな滑らかな「u」の押韻を意識して聴いてみたい1曲。特に序盤、中盤、終盤にそれぞれ配された「君が絵を描く原宿へ行く」、「僕の彼女は君を嫌う 君からのファックス隠す 雑誌記事も捨てる」、「「神は細部に宿るって」君は遠くにいる僕に言う 僕は泣く」というラインが強烈なブーストポイントとなって、曲は終盤に差し掛かるにつれみるみる速度を増して転がっていく。しかし、ただ韻を踏み倒せばいいわけではないのはもちろんそうで、実際全く無理して帳尻を合わせて韻を踏みにいっていないような、その滑らかな筆致こそが、小沢健二の凄みを表していると思う。

 

折坂悠太「揺れる」

最後は今年、2ndアルバム「平成」をリリースした折坂悠太。ソングライティング、アレンジ、録音、歌唱どれをとっても完成度の高いアルバム中の1曲。これは歌詞とか関係なく、とにかく圧倒的な詩だと思うのでもう全引用してしまおう。

折坂悠太「揺れる」

そちらは揺れたろうか
揺れたろうか

交わる事のない道なりに

地平を破いた風景が
通り過ぎていく
彼の地のあなたと呼び合い
歌うは夢だろうか
夢だろうか

そちらは揺れたろうか
揺れたろうか

「そちらは揺れたろうか」たったこれだけの言葉が、どれだけの市井の人々の生活、感情を掬い上げ、そこに固有のストーリーを生むだろうか。揺れることは想うこと、想いは地割れのような「線」でもって大切な人々を繋いでいく。