夏空の下、スピッツが鳴らしたロック

『バスの揺れ方で人生の意味が 解かった日曜日』〈運命の人〉

こんな表現、草野正宗以外の誰ができるだろうか。身近でありながら深く難解で、聴くたびに意味を考えてしまう。最近の私のお気に入りの曲だ。

玄人のような口ぶりをしてしまったが、私がスピッツをしっかり聴き始めたのはたった数か月前である。ラジオで『グリーン』を耳にしたのがきっかけだ。それまでは代表的な数曲しか知らなかったし、その魅力に気付くこともできていなかった。今すぐにでも過去に戻って、当時の私にスピッツを勧めたい。

そんな中発表されたROCK IN JAPAN FES. 2019の最終日のラインナップに、スピッツの名があった。その日は他のアーティストも大御所から若手まで魅力的だったので、思い切ってロッキン初参戦を決めたのであった。

8月12日、初めて降り立ったひたちなかには文字通りの直射日光が注いでいた。どうしたって気持ちが高ぶる。最大のGRASS STAGEを照らす太陽に容赦はなく、じっとしていると肌が焼けるようだった。それでも、誰もが知るアーティストの名曲の数々を生で浴びていると暑さを忘れてしまう。生の音楽が持つ力は凄まじい。

そしていよいよ、スピッツの出番がやってきた。画面の中、ディスクの中の存在だった彼らが目の前に現れることが信じられない。彼らが実在しているのかさえ甚だ疑問だった。

のどかなSEを背景に、4人がGRASS STAGEに現れた。この時ようやく、「スピッツって実在したんだ」と肉眼でそう確認することができた。熱狂の数万人を前に、4人の颯爽とした姿がとても格好いい。

「ほらピンクのまんまる 空いっぱい広がる

キラキラが隠されてた」〈海とピンク〉

一曲目、一フレーズ目から最高にロックである。ROCK IN JAPAN FESTIVAL の名にふさわしい(?)選曲で始まったスピッツの独壇場は、一貫して爽やかさと力強さを兼ね備えているものだった。麦わら帽子をかぶった草野マサムネの歌声はどこまでも透き通っていて、いつまでも一流であり続ける証であるように感じた。後日調べると、スピッツ4人全員が50歳を超えていた。信じられない。

老いを感じさせないどころか、若ささえ感じる“事件”ともいえる瞬間があった。それは『空も飛べるはず』の演奏後だ。誰もが知る名曲を繰り出したあと、間髪入れず次の曲の演奏を始めた。鋭く爽やかなイントロにどこか聞き覚えがあるが、曲名が分からない。周りの観客も似たような様子だ。有名じゃない曲なのだろうか。そう思っていると、次第にあちこちから大きな歓声があがっていた。進行するイントロが耳から脳に伝わり、やがて曲名が脳内に浮かんだ。それは間違いなく、RADWIMPSの『前前前世』だった。おとなしく聴いていた私も思わず、うわーー!!と歓声をあげていた。

「君の前前前世から僕は 君を探しはじめたよ そのぶきっちょな笑い方をめがけて やってきたんだよ」〈前前前世(RADWIMPS)〉

目の前で草野マサムネがそう歌っている。RADWIMPSをスピッツが演奏している。数秒間、何が起こっているのか分からなかった。カバーする側、される側のスケールが大きすぎて意味が分からなかった。この衝撃的な“事件”は一生私の中に留まり続けるだろう。

『前前前世』を終えると、鳴りやまない拍手と歓声。草野が口を開く。

「10月に出すニューアルバムに入ってる新曲を聴いていただきました、、、嘘です、冗談です」

粋すぎる。格好いい。以前サカナクションをカバーした際のウケが良く、今回もカバーに挑戦したそうだ。スピッツは、主催するイベントで自らが観たいアーティストを招いてライブを行っている。その中には中村佳穂やハンブレッターズなど新進気鋭のアーティストも多く、彼らの音楽への飽くなき探求心が感じられる。キャリアに甘えることなく、良い音楽を追求し続けるその姿勢が大好きだ。

続いて「新しめの曲を…」と告げ、涼しげな音から『優しいあの子』が始まった。朝ドラの主題歌になっていてほぼ毎朝聴いているこの曲を、生で聴くことができてとても感激したのを覚えている。

「氷を散らす風すら 味方にもできるんだなあ 切り取られることのない 丸い大空の色を 優しいあの子にも教えたい」〈優しいあの子〉

雲が混じる夏空の下には爽やかな風が吹き、私たちの体を通り抜けていく。どこか懐かしいそのメロディーはGRASS STAGEの数万人すべての心を掴み、魅了していた。

最近、復活や再結成で称賛を浴びているアーティストをよく見かけるが、本当に凄いのは活動し続けているアーティストのほうではないかと思う。スピッツは1987年の結成から、休止もメンバーチェンジもなく30年以上も活動を続けている。それだけでなく、常に良質な音楽を作り続け、常に音楽の最前線に存在している。だからこそ、昔からのファンが離れないし、私のように新たにファンになる人も多くいるのだと考える。今回のロッキンを観てスピッツを好きになった人もたくさんいるだろう。

「「さよなら」ってやだね 終わらなきゃいいのに 優しいものから離れてく 明日は来るかな ゴムボールが愛しい 転がってどこへ 追いかけて」〈コメット〉

終わってほしくなかったが、初心者もマニアも大満足の10曲を披露し、4人は颯爽とステージを去っていった。4人が見えなくなっても、私たち観客はしばらく動けずにいた。目の前で起こったことを噛みしめているようだった。始まる前には青々としていたひたちなかの夏空が、いつの間にか鮮やかなオレンジ色になっていた。

1時間にも満たない時間だったが、スピッツは確かに目の前に存在していた。終始、飄々としている4人がとても印象的だった。

ずっと存在し続けることの大切さを説くかのように、10月に出るニューアルバムに関する情報が次々と明らかになっている。とても楽しみだ。

スピッツが鳴らし続けるロックに、終わりはない。

文責:永村